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広島地方裁判所 昭和54年(ワ)1096号 判決

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  申立

原告は「被告らは原告に対し各自一八〇六万四〇一三円およびこのうち一六四六万四〇一三円に対する昭和五三年九月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、

被告らはいずれも主文同旨の判決を求めた。

二  原告の主張

1  原告は次の交通事故により受傷した。

(1)  日時 昭和五三年九月二〇日午後七時一〇分頃

(2)  場所 広島県佐伯郡佐伯町津田掛橋東詰県道上

(3)  加害車 普通乗用自動車(広島五六そ七〇六六)

運転者 被告藤岡

(4)  態様 原告が加害車助手席に同乗し被告藤岡がこれを運転して進行中、右県道付近で右折すべきところこれを誤り右県道付近のガードレールの一部途切れた部分から木野川に転落した。

2  原告は右事故により腎破裂、十二指腸破裂、腹膜炎、膵炎、膵挫滅、肝機能障害、腰椎骨折、第一腰椎横突起骨折等の傷害を受けた。そのため昭和五三年九月二〇日から同年一二月二五日まで九七日間広島市所在河石病院に入院し、同月二六日から昭和五四年五月二二日迄通院加療(実治療日数一七日)を受け、同日をもつて症状固定となつた。しかし自賠法施行令別表第七級の後遺障害が存する。

3  原告の損害は次の通りである。

(1)  治療費 二九万三一一〇円

(2)  入院雑費 一日少くとも一〇〇〇円程度を要することは公知の事実であり入院中の合計は九万七〇〇〇円となる。

(3)  付添費 五六日間の付添を要し、一日三〇〇〇円程度を要することは公知の事実であるから一六万八〇〇〇円となる。

(4)  休業損 休業により年間二回の賞与を減額されたが、その合計は一〇万二九〇〇円となる。

(5)  将来の逸失利益 二三八八万二五二三円

原告は前記の通り七級の後遺症が存し、その労働能力の五六%を喪失したものである。原告は症状固定時現在満二〇歳であり、二〇歳の男子労働者の平均年収は昭和五二年賃金センサス第一巻第一表によれば賞与を含めて一七八万九五〇〇円であるから、症状固定時以降の逸失利益は二三八八万二五二三円となる。

(6)  慰謝料 一三〇万円

以上損害合計二五八四万三五三三円

(7)  自賠責保険より八七七万九五二〇円、被告藤岡より計六〇万円を受領したのでその合計九三七万九五二〇円を損害合計額より差引く。よつて損害額は一六四六万四〇一三円となる。

(8)  弁護士費用 一六〇万円

4  責任原因

(1)  被告藤岡は加害車を自己の為に運行の用に供する者であるから、自賠法三条により原告に生じた損害を賠償する責に任ずる。

(2)  被告県は前記事故発生場所付近県道にガードレールを設置し、道路中央にはセンターラインを引いて道路交通に事故のないよう県道管理にあたつており且つ右ガードレールの所有・占有者である。また同所には事故予防の為通行する車の注意を喚起すべく頭部に黄又は赤色のランプ様のものを付着させた棒が立てられているが、被告県は同物件の所有・占有者でもある。しかしガードレールは右折すべき辺りで一部途切れ、その為途切れた部分の向うに道路があるかの如くに錯覚させるようになつており、また右ランプ様の部分は壊れたまま何ら修理がされず放置されていた。その為、地理不案内の者やうつかりしている場合は右折しなければ木野川に転落することが分らず、県道を直進しうるかの如き状態であつた。よつて被告県は国賠法二条により原告に生じた損害の賠償をすべき責に任ずる。

よつて原告は被告らに対し一八〇六万四〇一三円およびこのうち弁護士費用を除く一六四六万四〇一三円に対する昭和五三年九月二〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  被告藤岡の主張

原告主張1の事実は認める。同2の事実中原告が自賠法施行令別表第七級の後遺症が存することは認める、その余の点および同3・4の事実は争う。

本件事故は中学時代の同級生である友人の原告と同人の友人方に遊びに行くにあたり乗せて行つて欲しい旨頼まれてのもので好意同乗としての減額がなされるべきである。

事故直前原告は助手席においてシートベルトを付けるのに手間取り、運転中の同被告に対し「これはどうやるんかな。」と同被告の顔を助手席の方に向かせた結果瞬間的に同被告がハンドル操作を誤つたもので事故の発生に対して原告自身大なる過失がある。

同被告は原告に対し八〇万円を支払ずみである。

四  被告県の主張

原告主張の事実中1のうちガードレールの一部途切れた部分とある点は争いその余の点は認める、その余の事実は争う。被告県には何ら道路の設置・管理の瑕疵はない。

本件事故現場付近の道路は進行方向の手前から本件の転落地点まで約一二〇メートルにわたりガードレールおよび交通標識等が設置されており本件事故現場付近の自動車交通にとつて通常の安全性は十分に確保されていた。

また道路に設置されるガードレールは車両の路外への逸脱防止および視線誘導効等を有するものであるが、本件事故のように高速でセンターラインを超えて進行してくる自動車の路外への逸脱を防止することは困難である。

本件事故は自動車運転者がガードレールに沿つて設置されている交通標識およびガードレールの視線誘導に従つて適正な運転を行つていたならば発生しなかつたものである。

五  証拠〔略〕

理由

原告の主張1の事実中県道付近のガードレールの一部途切れた部分とある部分を除き各当事者間に争がない。

右争のない事実と成立に争のない甲第一ないし第四号証、第六号証の一ないし四、第七号証、乙第一号証、原告および被告藤岡の各供述、検証の結果、弁論の全趣旨を総合すると、被告藤岡は事故当日友人の原告を助手席に同乗させて本件自動車を運転して事故現場付近に時速約八〇キロメートルの速度で差しかかつたこと、事故現場付近は右にカーブしているのに減速することなく進行したため曲り切れず進行方向左側の道路外へ飛び出したこと、本件自動車はその飛び出した道路端から約二〇メートル余の地点に転落したこと、本件事故現場付近は最高速度毎時四〇キロメートルに制限されていること、当時は雨あがりで路面がぬれていて滑走しやすい状態であつたこと、原告は被告藤岡が右のように無謀な運転をするのに対し何ら制止しなかつたことを認めることができる。

右認定の事実によれば本件事故は被告藤岡の無謀な高速運転の結果本件自動車が道路から飛び出したものであり、カーブの手前で減速する等の通常の自動車運転手の注意をもつて運転しておれば本件自動車が道路外へ転落する等ということは起り得なかつたものであり、同道路の管理者としての被告県は何ら責任を負わないものと認められる。

又原告は被告藤岡の無謀運転を制止する等の行為はしておらず、本件事故はいわば自ら招いたものと同視し得るものであり原告は同被告に対し右事故による損害賠償を請求し得ないものと認めるのが相当である。

以上のとおり被告両名は原告の損害を賠償すべき義務を負わないものである。

よつて原告の本訴請求は失当として棄却を免れず、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 糟谷邦彦)

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